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缶詰博士コラム「缶詰のひとつ手前の物語」 第一回 秋田の缶詰メーカーがこだわる「水」の役割とは みんなの缶詰新聞 論説主缶 黒川勇人

缶詰メーカーを取材する際、その原料の様子を見に行くことがある。漁港で水揚げされる魚介類、畑で育てられる果実・野菜、醸造所で造られる調味料など、それらの産品を組み合わせることで缶詰という加工品が出来上がる。このコラムでは、そんな缶詰になる「ひとつ手前の物語」をお届けする。

高橋缶詰加工場の缶詰。製造には敷地内の水が使われている

 缶詰の製造に欠かせないのが水である。一般的には水道水が使われているが、秋田県には地下水をくみ上げて使う缶詰メーカーがある。同県には世界遺産の白神山地や霊峰・鳥海山などの山地があり、その雪解け水が長い年月をかけて地中でろ過され、清浄な地下水となる。

 「原料を洗うにも、シロップを作るにも、美郷町のきれいな水が欠かせない」。秋田県仙北郡美郷町にある「高橋缶詰加工場」の高橋和子さんは、敷地内でくみ上げる水に絶対の自信を持っている。美郷町には名水百選に選ばれている「六郷湧水群」など、126カ所もの湧水がある。地面を34メートル掘れば水が出るといわれており、そんな豊かな水を使ったサツマイモや栗などの缶詰は、地元の人にとって欠かせない存在だ。

 サツマイモの缶詰を開けると、皮をむいて大きめにカットされたサツマイモが整然と詰められていた。切り口が立っており、身が崩れていないのが見事。「隙間があると芋同士がぶつかって崩れる。きっちり詰めるのがコツ」

シロップで味付けされたサツマイモはほんのりした甘さがあり、マスカルポーネチーズを塗れば、それだけでスイーツになりそう。甘さがすっきりしているのも地下水のおかげだろう。

こまち食品工業「こまちがゆ」。水のミネラル分を感じるおかゆだ

白神山地が迫る秋田県北部、山本郡三種町にある「こまち食品工業」は1987(昭和62)年の創業時から「こまちがゆ」を製造している。同県のブランド米「あきたこまち」を使ったおかゆの缶詰で、水は工場の敷地内でくみ上げた地下水だ。

「原料は精米したあきたこまちと水だけ。米本来のおいしさが分かるはず」と同社の高橋東社長は胸を張る。常温でも食べられる柔らかさに炊いてあり、口に含むと米ヌカの匂いがまったくせず、それよりも水に含まれるミネラル分が感じられる。地下水は炊く時だけでなく、洗米や浸水にも使われているため、ミネラル豊富な水を米がたっぷり吸い込んでいるのだろう。

こまちがゆの缶詰は県から「優良県産品」として選ばれている。賞味期間は5年間と長く、最近は防災備蓄食としての需要も高いるそうだ。

今でも使われているという美郷町にある湧水「御台所清水」

再び美郷町に戻り、湧水群を巡り歩いた。今でもキュウリやトマトを冷やすのに使われるという「御台所清水」では、水面にポコポコと波紋が浮かんでいた。底から水が湧いているのだ。

 「この水は山のブナ林から流れてきている。ここまで来るのに15年はかかる」と、通りがかった地元の男性が教えてくれた。ブナなどの山林が蓄えた水が地中を流れ、町中の地下水になるまでにそれだけの年月がかかるという。水くみ場で一口飲んでみると、当たりが柔らかくてまろやか。刺激が全くなかった。

日本の缶詰では、原材料表記に水を表示する義務がない。しかしどんな缶詰にも水は使われている。表には出てこないが、れっきとした原料の一つなのだ。

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