缶詰コラム
編集長コラム 「商売は感性」 第4回 もちはもちや エイチアンドダブリュー
「デリシャス缶詰」という新しい切り口で、付加価値の高い缶詰作りを行うブランド、カンナチュールが奈良県の「天空あまご」を使った缶詰を販売し、オンラインを中心に好評だ。
天空あまごとは、離島を除いて日本一人口の少ない自治体、奈良県野迫川村にある、関西最大級のアマゴの養殖所で、きれいな雨水を利用して育てられたアマゴのこと。野迫川村は時期や天候によって見える雲海が有名で、天空の国と呼ばれている。売り先の確保などの問題で、食用として活用しきれず、アマゴを廃棄するケースがあり、有効活用を模索する奈良県がカンナチュールを運営するエイチアンドダブリューに相談。商品化に至り、廃棄物削減、有効活用という思想が多くの共感を呼んでいる。
エイチアンドダブリュー社は、加工食品市場で商品開発・顧客開発を支援するプラットホーム事業を行う。顧客からの相談を受け、商品を作るという単なるOEM事業ではなく、商品のコンセプト作り→デザイニング→商品作り→完成商品の販売という一連のプロセスを設計。それぞれの工程を細かく分解して、その工程ごとに最適なプロフェッショナルを当て込む。プロダクションであり、エージェントであり、プロモーターである。
エイチアンドダブリューの社員は4人。社長、プロデューサー、ディレクター、自社デザイナーのみ。案件ごとにプロデューサーが全体の工程を設計し、ディレクターが必要に応じて最適な人材・事業者に支援を仰ぎ、工程全体を円滑に進める。
「『スマホ一台で商品が作れる』がうちの看板。もともと動画広告の製作を行うマーケティング支援が主業務だったので、『分離発注』というやり方が染みついている。アニメを作るにしても、ナレーター、イラストレーターなどなど、プロフェッショナルをガッチャンコする。そうすることで、工場や人員を抱えることなく、最大のパフォーマンスが発揮できる」と社長の橋爪敦哉さんは言う。
「もちはもち屋の法則」。
同社はマーケティング支援事業を行う中で、食品メーカーからの相談が増え、国内需要だけだと先細ると感じ、2015年から海外マーケットも開拓する。その中で、台湾でめんたいこのテストマーケティングを行った際、めんたいこの総菜缶詰がめんたいこ以上に売れていく様子を見て、「日本の料理を閉じ込める」高付加価値缶詰に将来性を感じた。いざ国内で缶詰を作ろうと考えたとき、分離発注の考え方で、「作るのが得意な工場があるじゃないか、そこに作ってもらえばいい。われわれは工場の生産性を高める設計が得意だから、そのノウハウを工場に提供して、互いがベストパフォーマンスを発揮できればいいのでは」と橋爪さん。
結果作る人、デザインする人、名前を付ける人、販路を開拓する人、全体を管理する人。
プロフェッショナルがプロフェッショナル分野を担当するので、全体を見て、調整するコーディネーターもプロフェッショナルであれば、付加価値の高いアウトプットが生まれるのは当たり前。
何でもかんでも慣れ合って、仲良しグループで仕事を進めるようなことは個人的には大嫌いだが、できもしないことをやる気だけで引き受けて、結果的に頑張ったけども、できもしないことはやはり100%はできず、自身の一番の強みも発揮できず、全体としてうまくいかない。そんな事業をいくつも見てきた。結果、意地を張って、自分の一番輝ける場所も失ってしまう。
餅は餅屋と割り切り、自分が全体の中でどこで一番の力を発揮できるのか。一番結果が出るのはどういう体制なのか。そういうことを冷静に考えて、頼るべきところはプロに頼る。それが「餅は餅屋の法則」である。
崎陽軒のシウマイ弁当で言えば、俵にぎり、ゴマ、梅干し、マグロの漬け、タケノコ煮、かまぼこ…それぞれ一つずつ取ると、主役になれそうな個性派ぞろい。そこに、主役とされるシウマイがある。しかし、シウマイが主役、その他が脇役と考えるのは間違えている。
それぞれの「脇役」とされるプロフェッショナルがいるから、シウマイも輝くのだ。つまり、シウマイは、たまたま代表に選ばれた「リーダー」的な存在であり、リーダーが、自分ができない部分を、それぞれのプロフェッショナルに任せているからこそ、全体のハーモニーが成り立つ。
余談だが、あの器、経木も、立派なプロフェッショナル。あの器に詰められているからこそ、米の水分がいい具合に抜け、シウマイとの最高のコンビネーションを生み出している。
今日の教訓!
「意地を張らず、自信のコアでない分野は、その分野のプロフェッショナルの協力を仰ぎ、自分の強みが一番生きるような体制を作ることも能力の一つである」