缶詰コラム2024-05-01
編集長コラム「商売は缶性」
第3回 3缶12,000円で売れる缶詰の理由 やってみなはれ、シーライフ
島根県の名産、ノドクロを使った高級缶詰の販売が好調だ。商品名は「華爛(からん)」。2023年7月に実施したクラウドファンディングで、目標額の30万円を大幅に超える200万円以上を集め、商品化に踏み切った。
製造を担うのはシーライフ(島根県浜田市)。「浜田の地で捕れた新鮮な魚のおいしさを、日本全国、そして世界へと広く届けたい」を企業コンセプトとし、2006(平成18)年、干物製造販売業からスタート。2017(平成29)年、干物以外に商品の幅を広げようと考え缶詰の製造を開始。浜田の地を代表する海産物であるノドクロを使った缶詰開発に取り組んだ。ノドグロの缶詰作りの試作時に、ノドグロばかり使っていると経費がかさんでしまうため、代用として地元で多く捕れる魚を日替わりで使っていたところ、それぞれの魚の特徴に違いがあり、缶詰の作り方も魚種によって違ってくることに気付く。そのノウハウを生かし、生み出した缶詰シリーズ「今朝の浜」は、その日の朝、浜田港で量が多く捕れた魚を通常より安い値段で仕入れ、冷凍することなく生のまま缶詰製造に使うという、ぜいたくな中身が比較的安価に手に入る点、捕れすぎたということで市場で売れ残ってしまう魚を買い取り缶詰に活用するという、今のSDGsでいうアップサイクルの取り組みを先取りした手法で注目を集めた。「未利用魚」というような言葉がなかった時代に、「未利用魚」を活用した地域活性化を行っていた。
缶詰製造を始めてから、近隣の人たちからの声で、実は浜田には、昭和中期から後期にかけて、「缶詰の町」と呼ばれるほど缶詰工場がたくさんあったことが分かった。当時70~80代の地元の人からは、「久々に缶詰工場ができた、昔を思い出す」という声が多く聞かれた。実に浜田では27年ぶりの缶詰工場の設立だった。
熱意を持ってやってみる。やってみることで意外な出来事が生まれる。まさに、私自身も日々実践している「やってみなはれの法則」。サントリーの鳥井信治郎氏の名言、「やってみなはれ、やらな、わからしまへんで」は、決して何でもいいからやって見ろ、ということではない。「やり切ってみろ」という意味だ。
何かをやろうとするときに、もちろんやってみたらどうなるのか、特にビジネスにおいては軽率にやってみたことで資金が枯渇してしまい、身動きが取れなくなることは当然避けなければいけないことで、そうしたリスクをきちんと検討したうえで、できるところ、やりきれるところまで、やり切ってみろ。やってみなはれ、という言葉を、私はそのように捉えている。取りあえず何でもいいからやってみろ、やってだめなら次をやってみろ、という当たって砕けろの意味とは全く違う。砕けないようにやって、やり切ってみろ。
シーライフの場合、干物工場一本で展開する将来と、新しい商品作りにチャレンジする将来との方向性をきちんと吟味し、どうするか考え、悩んだ末に、「やってみなはれ」で缶詰の製造を始めた。水産技術センターや、同業他社の大手に頼み込み、考えうる限りの研究をした。初めての缶詰の製造でノドグロという一般的に缶詰にされていない商品を「やってみなはれ」でやってみたところ、意外な方向から意外なヒット作が生まれ、缶詰工場としての認知が広がった。認知が広がったことで、地元の意外な歴史を知ることになり、地元からの熱烈な応援と注目度を得た。
「浜田に缶詰工場があるぞ」と評判になったことで、さまざまな1次事業者や3次事業者が、自分の農産物が缶詰にならないか、自社ブランドの缶詰が作れないか、などさまざまな相談が寄せられた。これらを「浜田の魅力を全国に届けるチャンス」と捉え、「やってみなはれ」で缶詰の協業を始めた。同社では他社から依頼された商品の製造を、外注とは捉えない。自分たちが腹落ちして、やりたいと思ったから、自分たちの強みを生かし、分からないところは協力者を探して、一緒に缶詰を作るというスタイルに徹している。
高校生がマグロのホルモンを持ち込んできたときには、何時間もかけてマグロの胃袋を食品にできるように下処理をする高校生の熱意に打たれ、缶詰ならではの味付けの特性など、缶詰工場でしか知りえないノウハウを提供して、商品化に結び付けた。この缶詰は「LOCAL FISH CAN GRANDPRIX」で最優秀賞を獲得。キャビア目的で生産され、魚体は廃棄されていたチョウザメのアップサイクル缶詰もキャビア作りの業者と協業して製造。「やってみなはれ」で一つ一つやり切った、たくさんの協業商品が生まれた中の一つが、件(くだん)のノドグロ缶詰「華爛」である。
一人でも多くの人に浜田を知ってほしい、ノドグロの缶詰で、本当に特別なものを作ってみたい、という相談が持ちかけられ、依頼主と徹底的に話し合い、生まれたコンセプトが「浜田のノドグロ、まるごと」。
300グラム以上の大型ノドグロを、頭から尻尾まで、カマ・トロ・テールと3分割し、それぞれの部位ごとに「一番おいしい」と思う調理法で缶詰に仕立てた。「料亭を超えよう」が合言葉で、出来上がった商品は各部位1缶で3缶セット、その価格は1万2,000円。大胆なコンセプトがインバウンドの土産としても人気になった。最初から1万2,000円の缶詰を作ろうと考えていたら、果たしてやり切れただろうか。1万2,000円の缶詰が売れるのか、いや売れないだろう、やるのかやらないのか、そもそも、やらない、ということになっていたのではないか。いいものを作ろう、料亭を超える、ノドグロまるごと缶詰を作ろうと、徹底してやり切ったから、その値段にも自信を持ち胸を張り、商品化に至り、ヒットを生んだのではないだろうか。
今日の教訓!!
「やってみて初めて分かること・生まれることはある。迷うなら、リスクなどを精査し、ギリギリできるところまでやってみなはれ!」