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特集

缶詰コラム2018-10-02

缶詰博士のコラム「缶詰酒場めぐり」/第1回「東京・銀座 ロックフィッシュ」(その1)

 賞味期限が長く、おいしい缶詰は、飲食店の食材としても優秀。缶詰を上手に使ったメニューを提供する店を本紙論説主幹(缶)・黒川勇人が紹介します。

 星のごとくバーが並ぶ銀座の中で、古びたビルの7階に、ひっそりと身を隠すように営業しているのがバー「ロックフィッシュ」。2002年に開業し、今では銀座のバー文化の一翼を担うほどの存在だ。  店主は愛媛県出身の間口一就さん。大阪のバーで働いた後、北浜に「ロックフィッシュ」を開業。2002年に銀座へ進出した。

 ここのハイボールは誠においしい。サントリーの角をたっぷりと使い、ウィルキンソンの炭酸で割って、レモンピールでさっと香り付けをする。ただそれだけの素朴なものだが、氷は一切入れず、代わりに酒も炭酸もグラスも、きりっと音がするほど冷やしてある。

 とある残暑の日、久しぶりに出掛けてみた。蒸し暑い日には同店のハイボールが何よりも恋しいのだ。

 ドアを開けると、間口さんと増谷さんが迎えてくれた。増谷さんは間口さんの片腕のバーテンダーである。カウンターに腕を乗せ、真ちゅうの足掛けに足を休めたところで、目の前にハイボールが出てきた。この店では特にオーダーをしない限り、ハイボールが出てくる。他にも酒はあるのだが、客の99.9%はハイボールを頼むという珍しいバーでもある。

 そして、ここの酒の名物が缶詰を使ったツマミなのである。

「今日は缶詰を味わいたいんですよ」

 「ではオイルサーディンをお出ししましょうか」

 ロックフィッシュのもう一つの魅力は多彩な肴(さかな)。中でも缶詰を使ったメニューが25種類もあり、それぞれに独自の工夫が凝らされている。オイルサーディンとスコッチエッグはその代表選手である。

 増谷さんがきびきびと動き、肴を作っていく。その様子を眺めながら口に運ぶハイボールがたまらなくおいしい。

 ハイボールで胃が程よく刺激された頃合いで、オイルサーディンが出てきた。銀色に輝く小さなカタクチイワシから、たまらない匂いが立ち上ってくる。

 オーセンティックなバーでは定番ともいえるオイルサーディンだが、ここでは缶詰の油を少々抜き、しょうゆをさっと掛け回して直火で炙(あぶ)り、実山椒(さんしょう)を載せて提供される。

 使うのは京都の老舗缶詰メーカー・竹中罐詰のものにこだわっている。あえて脂の乗りきらない小さなイワシを使うのは、脂よりも身肉のおいしさを味わってほしいからだ。

 和のテイストが加わったイワシが絶佳。困ったものだ。ハイボールが進んでしまう。心地よくホロ酔いとなり、もう一品、缶詰のツマミを頼みたくなった。

(続く)

ロックフィッシュ
東京都中央区銀座7-3-13 ニューギンザビル7F
TEL 03-5537-6900
営業時間 (月~金)15時~22時30分
(土曜・日曜・祝日)14時~17時30分
日曜営業(不定休)