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缶詰コラム2024-04-08

編集長コラム「商売は缶性」 第2回 形あるものにネーミングを 居酒屋ニューカンテツ

   (ニューカンテツの関本さんと、製造開発をサポートする新食品の須山さん)

 全国で缶詰取材を行う中で出会う商売人。結局商売で重要なのは、その人の感性。そんな個性豊かな「缶性」を紹介するコラムです。皆さんの商売のヒントになれば。

 第2回は、新潟県三条市の居酒屋 ニューカンテツの「ネーミングセンス」。

2010年国分の「缶つま」シリーズの発売から、500円を超える価格の缶詰が世に出回るようになり、今では800円、1,000円の缶詰も珍しくはなくなった。木の屋石巻水産(宮城県石巻市)の「牛タン缶熟デミグラスソース」は800円を超える価格設定にもかかわらず、同社の売れ筋商品であり、一時は需要に供給が追い付かないこともあったほどである。

さすがに2,000円を超える価格の缶詰で売れ筋と呼べるほどのものはないが、都内缶詰専門店「カンダフル」の沖津真理奈店長によると、「2,000円を超えても例外的に売れ続けている商品があり、きちんとリピーターもついている」。その商品がニューカンテツ「ゆでたん」である。

ニューカンテツ店主・関本秀次郎さんのモットーは「料理人は、食のひとり百貨店」。料理人が1人いれば、メニューを作成し、食材をそろえ、料理を作り、客に提供する。その全ての流れは、まるで一つの会社のようで、食にまつわること全てが料理人1人で完成する。その考えから、1店舗の居酒屋の店主という枠を超えて、客が喜ぶ食べ方の提案や、まるで食品メーカーのように、自社で製造した食材をさまざまなルートに流通させるなど、幅広い活動を行う。例えばその活動の中で作ったメニュー「サバサラ」は、三条名物として全国的な知名度を誇るまでになった。

関本さんは20223月に缶詰製造を始めたのだが、そのコンセプトが「無添加・そのまま、地元の味を」。缶詰作りの設備は最低限の簡単なもの。大手の工場とは生産力で比べるべくもない、手作り感満載の缶詰作りである。自店舗や近隣の飲食店の「自慢の一品」を手作りで缶詰にして、販売する。そして関本さんが自分の缶詰シリーズに名付けた名前が「クラフト缶詰」。

「クラフトビールもクラフトコーラもあるのだから、自分たちのだってクラフト(手作り)」と世の中に宣言したのである。

名前を付けたことで、商品パッケージのコンセプトも決まり、全体としてクラフト感を打ち出す作りとなった。それが功を奏し、店頭では「缶の外からパッケージしか見えないのに、何だかおいしそう。手作りなの? という客の声が多いのには驚いた」(カンダフルの沖津店長)。

「缶詰(に詰める作業)が手作り(手作業)だから、クラフト缶詰と名前を付けたのだが、よく考えたら中身もクラフト、レシピだってそれぞれ地元の店主たちが考えたクラフト。まるまるクラフトだということに気づいた。特にコロナ中はクラフト缶詰をキャンプで食べることを提案したが、それも、キャンプで手間をかけずにクラフト料理を楽しもうと、ぶれずにクラフトを打ち出した。クラフトビールばかりもてはやされるのが悔しいと付けたネーミングだったが、結果的にその名前が自分たちのブランドの軸となってくれた」(関本さん)

(新橋のSL広場にて 関本さん)

これはまさに「君の名は、の法則」。何かしら形になるものを作った時、必ず名前を付けて、その名前で呼ぶ、ということはブランディングの第一歩である。

例えば何かのプロジェクトで、明確な方向性を示した名前が付くことで、関係者の中にあったふんわりしたイメージが、その名前に集約され、意思統一が図れる。その名前が付いているのだから、その名前に反するような内容にはできない。中身→名前→中身→名前というループが起こる。

手作りだからクラフト缶詰。クラフトだから中身もクラフトじゃなきゃいけないので、そのコンセプトに外れた缶詰作りはしない。クラフト缶詰なんだから、こんな中身でもいいかもしれないと、新しいアイデアが浮かぶ。その取り組みが、「クラフト缶詰って、本当にクラフトなんだ」という評判を呼び、作る側・売る側も、買う側も、クラフト缶詰ってこういうものだという共通した意識が生まれる。そして、クラフト缶詰がブランドとなる。

クラフト缶詰というシリーズ名を付けなかった場合、例えば、「あの缶詰」と呼ばれるようになる。「あの缶詰」がブランドとして広がることはないし、伝えたいコンセプトもきちんと伝わらない。ただのおいしい缶詰になってしまう。

名前を付ける呪縛というのも、もちろんある。その名前が付いてしまったことで、その枠から出ることができなくなってしまうのだ。表裏一体のものである。だから、名前を付けるときは「逃げられなくなる」ことも意識しながら、本当に大切なもの、守りたいもの、表現したいものをしっかりと考えて付ける必要がある。

そして名前を付けるときにもう一つ必要なのがセンスである。企業CMなどを見ていても、ピタッとはまるいい名前で印象に残るものがある。くすっと笑えて、忘れられなくなるものがある。

(製造開発担当の須山さんと人気のゆでたん缶/新橋・カンダフルにて)

 関本さんの店「ニューカンテツ」だが、コロナ禍前に経営していた居酒屋を閉店せざるを得なくなり、新たにスタートした名前である。旧店舗の名前は「カンテツ」。どういう思いでカンテツがニューカンテツになったのか、何を伝えたかったのか。単純だからこそ、いろいろ想像してみたくなる名前である。

今日の教訓!!

「大事な物事にはきちんと名前を付けて、関係者が共通認識を持ち、ブランドとして育てていくこと」。