防災缶詰の「黒潮町缶詰製作所」が10周年 記念で缶謝祭開催
2024年3月11日で10周年を迎えた黒潮町缶詰製作所(高知県黒潮町)が3月23日・24日、同社敷地内で「缶謝祭」を開催した。23日には、「みんなの缶詰新聞」論説主缶も務める缶詰博士の黒川勇人がトークショーに登壇。10年の歩みを振り返り、災害時の缶詰活用法を披露した。
友永さんオススメ、土佐あかうしの缶詰全文を読む
黒潮町は2012(平成24)年、内閣府「南海トラフの巨大地震モデル検討会」で、南海トラフ地震発生時に想定される津波予想高が34.4メートルと全国一。「災害の街」として住民の町外への転出が増え、修学旅行客が漁師の家に泊まる「漁家民泊」などもゼロになった。
「夢のない状態」(同社の友永公生さん)となったが、町を挙げて「防災の街」として、200人の町職員が全員防災対策員として活動。教育・福祉・防災・産業の全てを連携させ、「災害時に犠牲者ゼロを目指す」を合言葉に、「人にも町にも夢が必要。夢を見よう」(友永さん)と、2014(平成26)年3月11日、町の三セクとして缶詰工場を設立。産業を興すことで、直接・間接の雇用を生み出した。
食品工場設立に当たり、防災面で役に立つ備蓄食で、かつ高単価で売ることのできる高付加価値商品を検討した際、2010(平成22)年に誕生した国分の「缶つまシリーズ」が500円を超える、それまでにはあり得ない高単価ゾーンで缶詰を売っていることに注目。小さな町のスタートアップ企業が市場を作り出すよりは、既にある市場に乗る方が効率的と判断。また、2011(平成23)年の東日本大震災時の「きぼうのかんづめ」の取り組みをネットで見て、モデルケースと設定。地元のおいしい食材を用い、調味料に頼るのではなく、その食材の味を最大限に引き出した缶詰の製造に乗り出した。
気仙沼での東日本大震災被災者へのヒアリングで、被災時の備蓄食では食物繊維が不足することに注目し、野菜を用いた缶詰を多く製造。地域の農家とも連携し、缶詰の売り上げが地域経済にダイレクトに好影響をもたらす仕組み作りを行った。
さらに、「災害時に犠牲者ゼロを目指す」の看板に沿って、被災者が分け隔てなく楽しめる備蓄食を作る目的で特定原材料8品目(8大アレルゲン)不使用の缶詰作りに挑戦。「ゼロから工場を作ったのでできた。既に工場があったら、アレルギーフリーに転換するのはもっと大変な作業だった」と友永さんは振り返る。
愚直な商品作りで着実にファンを増やし、都内でも高級食品スーパーなどで見かけることが多くなった同社商品。今後の拡販にあたっては、町の中にたくさんいる米農家を守る観点からも、備蓄市場で「ご飯物の缶詰」(丼物など)を開発していくほか、工場設備の有効活用で小ロットのOEM製造にも対応していくという。
「高知と言えば北海道に次ぐ食材の宝庫。これだけ地元にある宝を有効活用できていないのがもったいない」と友永さん。「この10年を振り返ると、本当に『おかげさま』の一言。皆さまに支えられての10年間。この先は微力ながら、地元の雇用や農家や加工業者とのさらなる連携など、恩返しの10年としたい」とも。
この10年で作った缶詰の中では、「土佐あかうしのスジ煮込み鍋」が印象的だという。理由は、「自分がレシピを作ったから」とはにかみつつ、「高知家のうまいもの大賞で高知家賞を受賞した。地元の人たちに地元の代表として選んでもらった賞。今までの活動が認められたということで、グランプリよりもうれしい」と言う。論説主缶の黒川勇人は「牛肉はレトルト臭が出やすい食材だが、土佐あかうしのスジ煮込み鍋には臭みがない。肉を蒸煮してから使うなどの独自の工夫のおかげで、牛脂のミルキーな香りと甘みが味わえる。この商品も含め、同社の缶詰は全て8大アレルゲンとアミノ酸などの添加物を使っていない。食材それぞれの風味にダシなどを組み合わせてうまみを作り出す手法は独創的」と話す。内容総量は95グラムで、価格780円。ロフトなどで扱う。